インボイス制度も目前になってしまいました。レジスターの対応などが間に合っておらず、手書で領収書を作成される事業者もいらっしゃるかと思います。飲食店や小売店などは複数税率が発生することも多く、さらに複雑です。そこで、飲食店や小売業が手書きの領収書でインボイス制度に対応するにはどうすればいいか、考えたいと思います。
摘要(課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨))の記載の程度のルールは軽減税率導入時から変わっていません。消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)の問104の内容も、そのままインボイス制度開始後も生きていますので、「食品」などとまとめても軽減税率対象であることが判別できるならOKです。
(消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)問104より一部抜粋)
念のためインボイスコールセンターに確認したところ、上記認識で問題ないとの回答を得ています。
国税庁の説明資料、「適格請求書等保存法式の概要」の中にも「食品」でまとめている例がありますので、こちらも参考になるでしょう(仕入明細書をインボイスとして使う例です)。
簡易インボイス(適格簡易請求書)は、不特定多数の者に対して販売等を行う小売業、飲食店業、タクシー業等に係る取引に利用できます。
通常のインボイスとの違いは、以下の2つです。
①取引相手先の記載が省略可
②税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率⇒どちらか一方を書けばよい
②のほうに着目すると、税率ごとのそれぞれの税込金額の合計と、適用税率を書いておけば、税額を計算して記載しなくてよい、ということになります。税額を書いてもいいのですが、切り捨て切り上げなど面倒な話もあるので、税率は書いて税額は書かないほうが楽ではないかと思います。
<「適格請求書等保存法式の概要」5ページ>
簡易インボイスでも写しの保存は必要です。手書き対応の場合は基本的に複写の領収書を利用することになりそうです。
<国税庁ホームページより>
2023年9月30日までの区分記載請求書の記載事項は以下のとおりです。
①区分記載請求書発行者の氏名又は名称
②課税資産の譲渡等を行った年月日
③課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(軽減税率対象資産の譲渡である旨)
④税率ごとに区分して合計した課税資産の譲渡等の対価の額(税込)
⑤書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称⇒小売業等の不特定多数の者に対して販売を行う場合は省略可
このうち、「軽減税率対象資産の譲渡である旨」と「税率ごとに区分して合計した課税資産の譲渡等の対価の額(税込)」は記載しないことが可能でした(もらった側で追記してOK)ので、小売業等の不特定多数の者に対して販売を行う場合の最低限の記載は2023年9月30日までは以下の通りとなります。
①自身の事業者名(自社名や屋号など)
②取引年月日
③取引内容(食品など)
④税込の全体合計金額(税率ごとに分けなくてよい)
この状態から2023年10月1日以降のインボイス制度になることで追加する事項は、以下の3つです。
①取引内容に軽減税率対象が含まれている場合はそれが分かるように書く
②取引金額を標準税率と軽減税率に分けて書く(税抜でもいいですが税込で書くことをお勧めします)
③分けて書いた取引金額の税率は何%かを書く
さらにインボイス控えを保存する必要があります。
以上より、簡易インボイスを利用できる場合は、標準税率用と軽減税率用の領収書(ただし複写のもの)をそれぞれ用意し、領収書に記載できる内容をあらかじめ記載しておくことで、現場のオペレーションを最小限にできるのではないかと思います。
①適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
③取引内容(標準税率は「店内飲食」など、軽減税率は「食品(軽減税率対象)」など)
⑤適用税率
を事前に領収書に記載しておくことで、現場で領収書発行時に記載する内容を
「取引年月日」と「税率ごとに合計した対価の額」に絞ることができます。
事前に領収書全部にハンコおしたり書いたりするのも面倒なので、できれば機械で印字発行できるレジなどを使うほうが効率的だとは思いますが、それが不可能な場合は上記のような方法も考えられるかと思います。
インターネットで見た中だと、ヒサゴの領収書があらかじめ「飲食料品等(軽減税率対象)」と印字してくれているので使いやすそうです(通常のインボイス用に作成してくれていますが、簡易インボイスの場合は相手先、消費税額を省略できます)。
<ヒサゴ 領収証 小切手サイズ 2P>
赤字の部分は事前に記載することができる内容なので、先に書いておくことで、現場での記載事項を「取引年月日」、「税率ごとに合計した対価の額」とチェックボックスへのチェックに絞ることができ、記載漏れのリスクを減らせます。取引内容を画一的に記載できるなら、インボイス番号のゴム印だけでなく、取引内容のゴム印もつくったほうがいいかもしれません。
なお、実際に、インボイス番号は書いてあっても税率の記載もなければ取引内容の記載も抜けていたケースもあるようです。しばらくはお互いに気を付けるしかなさそうです。
また、複数税率に対応していない領収書が残っている場合は、10%用と8%用を別々にそれぞれ事前に作っておくのも1つの方法だと思います。
簡易インボイスに販売先を記載しなくていいのは現状の区分記載請求書(不特定多数と取引する場合)と同じですが、税額・税率の記載はインボイス制度から求められる項目です。原則のインボイスは税額・税率とも記載が求められるため、簡易インボイスにも両方の記載が求められるという誤解がしばらくの間は発生するかもしれません。このあたりは注意が必要でしょう。